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執筆日:2023.05.08 舞台:青区画/リクリ 登場人物:黒野深根・猫・境蓮惺弥

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画像:Unsplushより

画像:Unsplushより


朝起きてすぐ、周囲の異変に気がついた。

部屋が、窓の外が、昨日まで陸地だったはずの場所が、澄んだ水の中に沈んでいる。

しかし、エラ呼吸でもないのに問題なく呼吸ができる。吸い込んだ空気に少し、梅雨の日の空気のような重みを感じるが、水そのものを吸い込んでいるような感覚はない。

浮力は働いていないようで、体や他のものが水中を漂うことはなく、濡れている様子もないが、動くと確かに水を掻いたような抵抗感がある。

——水の質感だけが満ちている、という状態だろうか。何とも不思議な感覚だ。

恐らくこれは、常識の「上書き」なのだろう。

それまでにあった常識が覆されることを、この世界の人々はそう呼んでいる。

この世界ではそう珍しいことではなく、規模も様々だ。今回の水没は、大規模の部類だろう。

この「上書き」は、別の現象の上書きによって消えるかもしれないし、このまま定着するかもしれない。

そうやって、この世界は少しずつ変化している。

朝の支度を一通り終えて階下のダイニングへと向かうと、焼けたトーストのような香ばしい匂いが漂ってきた。

確認しそびれていたが、様子からして電化製品などは問題なく動くようだ。